「親愛なる僕へ殺意をこめて」とは、原作 井龍一先生・作画 伊藤翔太先生の二重人格クライムサスペンス。ミステリー要素も多く含まれる。
2018年より週刊ヤングマガジン(講談社)、その後2019年からコミックDAYSで連載する。全11巻(全97話)で完結済み。
- 結末はどうなるのか?
- 最終回における京香やB一の行動を解説。
本記事では、「親愛なる僕へ殺意をこめての最終回について」解説しています。
親愛なる僕へ殺意をこめて|最終回までのあらすじ
10巻で、黒幕は義理の父(浦島亀一)と明かされ、殺人鬼LLの事件の真相が解明される。
亀一と八野衣真は表向きは家出少女たちを救う役割を担っていましたが、亀一は裏で彼女たちの命を奪っていました。
冷酷な計画により、八野衣真はLLの罪を着せられる。
自分に絶対の信頼を置いてくれる人間を踏みにじり、亀一のサイコパスな一面が明かされます。
親愛なる僕へ殺意をこめて|最終回(最終巻)を解説
最終巻では、八野衣エイジ(B一)は、亀一を殺さない選択をします。
そして、11月18日、雪村京香の生家で起きた事件の真相は、京香を救うために浦島エイジ自らが消滅を選んだものだった。
最終回では、B一が2年間の服役を経た様子が描かれます。
2年の服役の理由は、描写がありませんが、脱獄と銃刀法違反、公務執行妨害などが原因でしょう。
復讐に憑りつかれて、自我を失いかけていましたからね。
詳細は漫画を読んでほしいので割愛しますが、結末はハッピーエンドとは言えません。
ただし、B一が前に進んでいく様子が見れるので、多少なりとも救いのある内容となっています。
最終巻のエピローグを読んでほしい
最終巻には、エピローグが18ページ加筆されています。
内容は、その後の世界の描写。
鉛筆タッチで描かれており美しく、その繊細さに心が打たれます。最後の一コマのセリフは、特に心に深く響く。
興味があれば、ぜひ読んでみてください。
親愛なる僕へ殺意をこめての最終回|B一が復讐を遂げなかった理由
この作品は、説明的ではなく、サイコパスな犯行動機や矛盾のある行動が多いため、一度の読了ではすべてを理解するのは難しい。
特にLLを殺さなかった理由は、作中の複数個所に散りばめられている。
この辺りについて、頭ではわかっていても言語化が非常に難しかった。筆者の考察も含め解説していきます。
理由①
B一が復讐を遂げなかった理由1つめは、亀一自身がB一に殺され、LL事件の真相が明らかになるラストを望んだから。
10巻で明かされているが、亀一はLL殺人を作品と考えており、愛するB一に殺され世間に盛大なネタバレで幕引きを望んだ。
亀一を殺してしまえば、願いが叶ってしまうため、B一は反発し殺せなかった。
ただこれは、作品内に明記されていたわけではなく、わたしの考察。これが大きな動機というわけではない。
理由②
B一が復讐を遂げなかった理由2つめは、京香に罪を認めさせるためだったから。
11月18日、雪村京香の生家の真相は、京香が「黒幕が亀一であること」「浦島エイジが作られた人格であること」を伝え、エイジの消滅を狙ったものだった。
だが、京香の行動にある矛盾から、エイジは逆に京香が愛を求めていたと気づきます。
京香の心を救うため、エイジは彼女の行動を全て許し、自らの消滅を選択する。
しかし、エイジの消失後に誤算が起きる。京香は、「エイジのまっすぐ想う心」によって救われ、好きになってしまう。
京香は、B一が復讐を遂げれば、B一の人格が消滅し、エイジに再会できると考えた。
そのため、信仰するLLの手がかりをB一に与えていく。
それに気づいたB一は、意図的に復讐を遂げなかった。そして、エイジが二度と戻らない現実を京香に突き付けることにした。
京香に「大切な人を失う痛み」と「人を殺す罪の重さ」を理解させるためだった。
しかし、B一が主人格である以上、B一が復讐を行っても行わなくても、エイジは戻ることはありません。
そのため、復讐を遂げなかった理由にはならない。
この点には若干の疑問や矛盾が残ったが、一つの答えを考察しました。
それは、復讐によって亀一を殺害してしまった場合、B一自身が亀一や京香と同じ道を歩むことになり、結果的に京香に罪の重さを理解させることが不可能になるから。
エイジの犠牲を無駄にしないため、そして過ちを繰り返さないための、B一の深い思いやりなんだと思います。
理由③
B一が亀一を殺さなかった理由3つめは、復讐の連鎖を断ち切りたいという思いにあった。
誰の心にもあるが、悪意に対して悪意で返す。それは時に自己防衛のために。
B一は、悪意が悪意を呼ぶ連鎖を避けたかった。新たな悲劇の種をまくことを拒否したのです。
また、この選択には、エイジの存在が大きく影響している。
エイジは、雪村京花に散々利用され裏切り行為を受けるも、敵意を向けるどころか、無償の愛で抱擁した。
その純粋な行動が、結果として京花の心を変えたのです。
B一は、エイジの「悪意で返さない行動」に影響を受け、亀一の罪を警察に委ねる道を選びました。
この物語は、「復讐はさらなる復讐を生む」という古くからの常套句を新たな視点で描き出しています。
実際にLL信者の佐井社(サイ)に悪意の連鎖が起きていますからね。
言葉では表現できない心情が深すぎて、一度で理解するのは中々難しかった。
全体を通して見ると、B一の行動によって、浦島エイジの存在感がより大きく感じられます。
愛する人のために、何の躊躇もなく自らの命を捧げられる深い優しさに心打たれました。
親愛なる僕へ殺意をこめての最終回を読んだ感想
二重人格と怒涛の展開が良かった
この物語の最高の設定は、二重人格。
人格が入れ替わっている間は、時系列が飛び飛びに描かれる。
「人格が入れ替わっている間に何が起こったのか」という考察をしながら、読み進められるのが面白い。
加えて、ストーリー展開は、隙を与えないくらい怒涛のように進行する。
読み手を引き込む力があって、一気に読み進める魅力がありました。
陰と陽の関係にある、B一とエイジがお互いを煩わしく思っていたが、相互が影響しあって成長していく姿には感動。
二重人格だったから真相が解明できたのだが、自己投影しやすいエイジというキャラクターの消滅は辛く感じた。
ただ、物語全体としては非常に引き込まれる内容でしたが、一部の辻褄合わせが強引に感じるシーンもありました。
特に、エイジが自身が二重人格であることに気づいていなかった点には、やや不自然さを感じる。
また、登場するキャラクターに、猟奇性の高いサイコパスが多すぎて、その点にも違和感を覚えてしまった。
心情描写と表情描写の破壊力が強い
この作品は、クライマックスに向けて心情描写がより複雑になっていく。
加えて、繊細な表情の描写やコマ割りの巧みな使い方があわさり、映画を観ているかのような臨場感や、小説を読んでいるような空気感を与えます。
しかし、時系列が飛び飛びになるため、前後関係をしっかりと捉えないと物語を深く理解するのが難しい。一部の読者にとっては、説明不足に感じることもあるでしょう。
それでも、「登場人物の変化を描き出す心情描写と表情描写」が、唯一無二の表現となっている。
絶望や鬱展開がつらい
サスペンス漫画なので、絶望を感じる場面や鬱展開がつらかった。
特に記憶に残るのは、エイジが実は主人格ではないという事実が明かされる場面です。
物語の序盤からエイジの視点で語られることで親近感を抱かせながら、後にB一が主人格であるというトリックは、かなり秀逸に感じました。
さらに、京香の幼少期に起きた出来事や物語の終盤で迎える彼女の運命は、救いがない。
これらの展開は物語に深みを加える一方で、共感性の高い人にはつらい内容となっていた。
SNSの描写がない点がむしろ良かった
昨今のサスペンス・ミステリー作品に多いのが、SNSやネットを絡めた描写である。
しかしこの作品では、そのような描写が意図的に避けられているように感じた。
ニュース映像は登場するものの、SNSに関する描写は一切ありませんでした。
「LLの再来キタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!」みたいな表現があると、寒なるからですかね。
作者がこのような選択をした理由は明らかではありませんが、それが作品を安っぽい印象にさせない一因となっていると感じられます。
キャラクター名にこだわりがあって面白い
読了後に、主要人物の名前が気になったので、少し調べてみました。
おとぎ話を連想させるものが多く見られます。
浦島エイジの名前は、「浦島太郎」に由来しています。「亀」に竜宮城に連れていかれ、帰り着くと時が経ち、玉手箱で年老いる。
これは、エイジが亀一のせいで二重人格を持ち、人格交代で時間が飛ぶ現象を示唆している。
雪村京香(旧姓白菱京香)は、「白雪姫」でしょう。
高慢の継母が、猟師(白菱正人)を支配し、最後には毒リンゴ(白菱凜)を食べさせる。
このように、キャラクターの背景や物語の展開におとぎ話の要素を織り交ぜている。ただ、八野衣がわからなかった。八咫烏かなぁ…。誰か教えて…。
親愛なる僕へ殺意をこめての最終回(最終巻)の推しコマ
推しコマ1:エイジ消滅のシーン
親愛なる僕へ殺意をこめて 11巻から引用 原作 井龍一・作画 伊藤翔太 / 講談社
11月18日、雪村京香の生家。
エイジが、京香の本質に気づき寄り添う一コマ。
4ページにわたり、エイジの表情を見せない演出から、彼の感情が溢れ出るシーンが展開されます。
エイジの、「無力感」「苦悩」「消えたくないという願望」「やさしさ」「カッコ悪さ」などの感情が表現され、視覚的にも強く訴えかけます。
感情の盛り合わせにグッときました。
物語がクライマックスに近づくにつれ、キャラクターたちの心情が錯綜(さくそう)し、リアリズムが増していく部分は見事。
漫画家さんは、巻数を重ねることで画力が向上していきますが、どちらかと言うとリアルを演出している側面が強い。
特に京香は、曲線のある女性らしいデフォルメ描写から、リアルな骨格を感じる描写になっている。
第1巻からエイジの成長を見守ってきたので、この場面は特に心に深く刻まれるものとなりました。
推しコマ2:エイジの残影
親愛なる僕へ殺意をこめて 11巻から引用 原作 井龍一・作画 伊藤翔太 / 講談社
最終回の一コマ。
先述しましたが、服役を終えたB一が、新明寺によるクラッカーでの祝福と労いの言葉を受けます。
クラッカーの音に驚いたB一が反射的に耳たぶを触る。
これはエイジのクセであり、B一自身はそれを知りません。
エイジはいなくなってしまったけど、B一の中に生きている。
読者としてエイジには共感できるし、愛されるキャラクターなので、どうしても生きていてほしかった。
悲しい結末だったけれど、救いを含んでいる内容で完結を迎えます。
親愛なる僕へ殺意をこめてはドラマ版より漫画推し
わたしは、漫画版とドラマ版の両方を鑑賞しましたが、漫画推しです。
ドラマ版が、魅力的でないわけではありません。
役者さんの演技力は際立っており、演出も素晴らしかったです。
ただ、遠藤憲一さんが亀一役を演じることで、彼が黒幕であることを視聴者は早々に推測できてしまいますよね。メタ的な観点ですが。
また、ドラマ版では新明寺麗が登場せず、その役割はナミに引き継がれています。
新明寺が、B一の名付け親にもかかわらず。
新明寺の独特なキャラクター性や謎めいた感じが、私にとって大きな魅力でした。新明寺は、飛び道具的な存在だし、原作ではかなり重要なポジション。
また、漫画では最終話に畑中葉子のお墓にクローバー(シロツメクサ)を供え、イヤリングとリンクした意味のある演出となっている。
この演出も異なる。
漫画からエントリーした人からすると、欲しい描写が少ないんですよね。(尺の問題や大人の事情なので、しょうがないですが。)
また、漫画版を特に推す理由は、「画力」と「キャラクターの心情描写」にあります。
この作品は、絵は実に巧みで、写実的で美しさとデフォルメのバランスが非常に良い。
キャラクターの表情一つ一つに深い感情が込められています。
サイのヤバさとかも、漫画にしかできない強い恐怖感を生み出しています。間抜けなエイジとの対比が、面白いんですよね。
親愛なる僕へ殺意をこめて 11巻から引用 原作 井龍一・作画 伊藤翔太 / 講談社
表現のデザイン性も高い。
さらに、キャラクターの心情の描写が丁寧に施されており、丁寧なコマ割りと間の表現が、物語の魅力を一層引き立てています。
親愛なる僕へ殺意をこめての最終回を読んだ人の口コミ・感想
『親愛なる僕へ殺意をこめて』 原作:井龍一 漫画:伊藤翔太 ドラマで知って原作読んで相乗効果で鬱も極まった感。 漫画は凄惨なシーンはより凄惨で画が綺麗なだけにより来るものあり。 怖いのは人の心の裡に棲むナニカか。 心に刺さる言葉も多々あり
引用:X
個人的過去一の作品を更新した 勝手に点数つけるなら92点 「親愛なる僕へ殺意をこめて」 これ程面白い作品はない ぜひ読んで欲しいと思うドラマもあるらしいが評価は知らん 他にはヤンマガとかでも読めるよ
引用:X
親愛なる僕へ殺意をこめて。 面白かった。普通の漫画の気持ちで読んだらマジで状況も時系列も分からなくなりそうだけど、ゆっくり1つ1つの出来事に注目していきながら読むとまた一層と面白い。 伊藤翔太さんの作画も井龍一さんの原案も他とはまったくもって違う。とても良かった。
引用:X
親愛なる僕へ殺意をこめての「最終回」をお得に読む方法
原作 井龍一先生・作画 伊藤翔太先生の作品には、「親愛なる僕へ殺意をこめて」以外にも、「降り積もれ孤独な死よ」という作品があり、こちらもサスペンス漫画となっています。
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本記事のまとめ|親愛なる僕へ殺意をこめて最終回を解説
「親愛なる僕へ殺意をこめて」は、登場するキャラクターの背景や心情描写がしっかり作り込まれています。
また、憎悪や復讐が何も生まないと頭では理解していても、そう感じずにはいられない葛藤がリアルに描かれています。
漫画を読んでいるのに、小説を読んでいるような感覚になる傑作。
物語の核は、やはり二つの人格の悲しい運命。どちらかが消えてしまうことが想像できてしまうこと。
漫画だけどご都合展開のラストにはならないリアリティ。
ぜひ、最終回を、ご自身で確認してください。「親愛なる僕へ殺意をこめて」は、自分で体験する価値のある作品です。
繰り返しになりますが、最終巻はエピローグが18ページ加筆されています。ぜひ本書を読んでいただきたいです。